DOL!NK #004

Report 

2019/04/24 /// Creative lab node Yokogawa(横川)

DOL!NK#004 三谷繭子×鈴木美央

■自己紹介


<鈴木未央(以下、鈴木)>

 私が世界で一番好きな建築は「横浜港大さん橋」なんですが、その理由は、大さん橋に居る人はみんな幸せそうなんです。そして、この大さん橋を設計した建築設計事務所で働きたいとイギリスに渡り、5年間働きました。様々なプロジェクトに関わり、途上国でも仕事をする中で、建築家が社会に対してできることは限られているなと限界も感じました。全ての人が幸せな日常を送るために、建築家が社会に対してできることはなんだろうかということをいつも考えてます。


<三谷繭子(以下、三谷)>

 福山出身で、今は東京を拠点に活動しています。大学院でまちづくり(プレイスメイキング等)を学んだ後、都市開発関係の仕事をし、2017年に独立し「Groove Design(グルーヴデザインズ)」を設立しました。グルーヴは音楽用語で、“ノリ”みたいなもの。「楽しいことをやりながら、知恵を出し合って、課題解決していきたい。」「まちでの豊かな場の経験を通じて自分のまちを愛する人を増やしたい。」そんな思いで、公共空間活用による都市再生、地域のエリアマネジメント支援、町内会組織のコミュニティづくりの支援などをやってます。


■マーケットの魅力


<鈴木>

 ロンドンのマーケットの写真を見てもらいます。普段の道路が、マーケットが開かれると景色が変わりますよね。私、これを見て、建築家として負けた気がしました。マーケットは小さなものの集合体でまちの機能や景色を変えてしまう。マーケットについて話したいことがたくさんありますが、今日は時間足りません。本にまとめているので買ってください。面白い本なんで。(笑)

 1つだけマーケットの話をすると、マーケットは場所の愛着を高めることができるのがすごいところです。地域の人は「ウチのまちは何も無い」と言いますが、マーケットをやると魅力がたくさんあることがわかります。老舗の和菓子屋さんやハンドメイドの作家さんなど、見つけた魅力がビジュアルに現れるんです。地域の魅力がビジュアルに現れると、人が集まる。そうすると、まちのイメージができ、交流や体験が生まれる。マーケットに来た人は、まちを「自分ごと化」しはじめ、まちを好きになり、シビックプライドを持つことができるんです。

 今回は、会場の皆さんからも、マーケットについて質問、意見など聞きたいと思います。


<会場>

 先月、30店舗くらいを集めたマーケットを開催しました。そこで感じたのは、お祭りとマーケットは違うということ。マーケットでは一日楽しんでいて、特にお菓子を作るコーナー(クッキー台座にデコレーションする体験)では、子どもが熱心に遊んでいた。マーケットが成功したかどうか分からないが、まずやってみる、DOしてみることが大事だなと感じました。


<鈴木>

お祭りはイベントで、マーケットは日常なんですよね。地域にスキルを持った人はいっぱいいるんですが、そういう人に場を提供してあげることもできます。マーケットは、続けることに意味があって、開催することが成功と言ってよいと思います。


<会場>

 マーケットにいろいろ行きますが、がっかりする時と、楽しい時があります。個人的には人と話しなかったり、地元っぽくなかったりすると残念に思うのかと思いますが、どこでその差が出るんですかね。


<鈴木>

 良いマーケットと悪いマーケットあります。ある地域でマーケット疲れしているとか、人も集まらないのに付き合いで出店しないといけないとか、そんな声がありました。それは悪いマーケットですよね。これから、マーケット文化を創っていくためには、良いマーケットはどんなものかを整理しておいた方が良いと思って、いくつかポイントをまとめました。

 まず、「閉じたコミュニティではない」こと。ママさんハンドメイドマーケットとかだと、お互いが買い合うだけで開かれて無い感じがします。次に「地域との繋がりがある」こと。地域の魅力を感じられない出店は、ただの土地貸しだなと思います。そして「適正な規模である」こと。大きければよいというものではなく、地域の魅力を伝える規模、ゆっくり話せる空間など、目的によって規模が違うものだと思います。更に「心地の良い空間設計ができている」こと。マーケットには、建築家やデザイナーが入って設計が入るべきだと思っています。


<三谷>

 私は福山出身で東京にいあるので、実は広島市内のことをあまり知りません。広島市内でめっちゃ良いマーケットってどこかありますか。


<会場>

 広島の市内の中心部、袋町の公園を使って、秋と春に年2回「トランクマーケット」をやってます。来月も予定しています。袋町にハイブランドを誘致したいという狙いもあって、ハイブランドからも出店してもらっていて、それが他のマーケットの差別化になっていると思います。

 マーケットをやりたいというよりも、袋町の商店街の活性化を考えているので、マーケットに来た人たちにはまちを回遊してもらいたいんですが、そこが課題です。マーケットを利用して商店街を活性化させる糸口があれば教えてほしいです。


<鈴木>

 そもそも、マーケットをやりたいのではなく、商店街を活性化させるためにマーケットをやっているのは素晴らしいと思う。マーケットをやりたいからマーケットをやるのは間違い。それだとマーケットを使いこなせません。

 商店街等で行うマーケットは、マーケット開催で人の流れができると、店舗の売上げも上がりやすいですが、公園でのマーケットは、商店街に来ているというよりも、公園に来ているという意識が強すぎるのかも知れないですね。南池袋ではマップを作って、地域を回ってもらう工夫をしていたり、商店街の店舗自体をマーケットに出てもらったりしてますね。


■地元への愛着


<三谷>

 今、福山でやっているのは、歩道空間を活用した社会実験です。福山駅前は、開発がうまくいっていなくて結構やばい。福山駅前は通過する人はいますが、まちの中で滞在している人がすごく少ない「死んでいる」風景です。何とかしないと、という地元の人たちと一緒に、広い歩道を活用しながら、歩行の快適性、回遊性の向上をめざして社会実験をやっていて、10月で4回目になります。

 私は地元が嫌いで飛び出したんですが、大学で地元好きな人が多かったのがカルチャーショックでした。そこからまちづくりに興味を持ち、まちに関わり始めると良いところが見えてきました。地元福山が嫌いだった理由は、まちの魅力が可視化されていなかった。こういう取組をするようになって人が見えてくると福山が好きになってきたんです。

 社会実験は、普段実店舗を持てない人がテストマーケティングできる場や、似顔絵を書いたりする人が出店する場、お酒が夜飲めるエリアなど、いろんな場所を作りました。そうすると、例えば福山駅を使う高校生が学校帰りに立ち寄ったりするなど、いろんなニーズが見えてきました。私が高校生の頃はスタバがありましたが、今は無くなってしまい、高校生の居場所が無い、楽しい経験をする場所が無いようなのです。私のような人を育てないために、小さい時に町の中で楽しい経験をすべきで、そのために社会実験をやっています。

 福山では、いろんな取組が増えてきていて、「なんかやろうぜ」という人が繋がってきている。社会実験では、まちに愛着を持つプロセスを重視していて、2回目から公開企画会議として何かやりたい人が自分で企画できる、参画できるきっかけ、関わりしろを作ろうとしています。


<鈴木>

 最近、ずっと考えているのは、まちにおける子どもの存在が軽視されすぎているのではないかということ。これからのまちを考えると、子どもがまちを作っていくので、子どもの時にまちとどういう関係を作ったかということが大事だなと思ってます。まちでの経験こそ教育で、自分のまちが好きということにも繋がってくると思います。もっと、私たち自身がまちを教育の場として使わないといいけないなと。

 そもそも、子育ての当事者がまちをつくっていない。例えば、公園は冬寒いし、夏は暑い。こどもは2時間でも3時間でも遊ぶ場所だが、親にとっては修行のような場所になっている。公園の設計に当事者が入ったり、寄り添ったりすれば、公園はいろいろできたのではないかという思いはあります。ヨーロッパは広場に公園があって、カフェもあって、親はお茶を飲みながら、囲まれた場所で遊ぶ子どもを見ることができます。

 小学1年のウチの子には、夏休みの課題としてマーケットに出店させたいうちの子も出店させたい。本人がやりたがれば6年間。それは私が提供できる教育のあり方の一つだなと思っていて、たぶん自分の子はどんぐりとか売り始めるけど、それを止めないことが大事だなと。どんぐりを買おうという同じ価値観の人もいるかもしれない。


<三谷>

 子どもの時の体験は残るんですよね。福山の社会実験でも、小学校の総合学習の時間に使ってもらうことにしました。子どもたちに、やりたいことをやってもらおうというスタンスです。学校生活の中だけでは大人というと先生と親としか出会っていなくて、楽しいことやろうぜっていう大人が周りに居ないんですよね。いろんな大人に会って学ぶ接点がもっとあると良いなと思ってます。


■豊かな日常に向けて


<会場>

 川土手や公園でサンドイッチ片手にビール飲んでいる、そういう良い感じの雰囲気を出しているのは、だいたい外国人です。なんてことないところも、うまく、楽しげに使っている。公共空間をうまく使いこなしている人は住んでいる人ではないということが切ない。もっと当たり前に、うまいこと使えば豊かになるのになと思います。


<鈴木>

 確かに外国人の方が公共空間を良く使っていて、それは文化の差だとも思うけども、それを面白いって思う日本人も実はたくさんいる。外国人の方はその場の使い方を知っているパイオニアユーザーと考えれば、パイオニアユーザーの行動を面白いね、良いねと思った人が真似をして同じような行動をする。これを更に真似していくと、能動的な活動は無限の広がりを見せると思ってます。何か整備して与えるのではなく、パイオニアユーザーを真似するということで良い使い方ができる。一斉に公共空間を使いましょう、というよりも、10年かけて少しずつ増えていった方が明るい未来があると思います。

 



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